東京高等裁判所 昭和41年(ツ)156号 判決
被上告人が山本広雄に対し同年四月分および五月分の賃料として提供、供託した金額は、原審の確定するところによれば、一月金一、一〇〇円の割合による合計金二、二〇〇円であるから、右提供、供託に係る金額は、前記統制賃料額一、一四一円余の二ケ月分の合計額に不足すること僅かに金八二円余である。ところで、原審は次の事実を認定している。すなわち、山本広雄は昭和三一年一月二三日前所有者平林から本件建物を買い受けるや、直ちに被上告人に対し本件建物を同年六月末日までに明け渡すよう申し入れ、被上告人が松本市役所で調査した公定賃料額に基づいて、同年四月、五月分として一月金一、一〇〇円の割合による金二、二〇〇円を提供したのに対し、「家賃は問題ではない。本件建物を明け渡して欲しい。」旨申し向けて、その受領を拒絶した。右原審の認定した事実によれば、被上告人は本件建物の統制賃料額を一月金一、一〇〇円であると信じ、その全額の支払をなす意思の下に、上記のとおり右金額を提供、供託したもので、統制賃料額がこれを超えるものであることを知りながら、ことさらその一部の支払をなす意思であつたとは認められないし、しかも被上告人が統制賃料額を金一、一〇〇円であると信じたのは、わざわざ松本市役所にまで出向いて調べた上でのことであるのみならず、その不足額も合計で僅かに金八二円余にすぎないのであるから、被上告人のなした上記提供、供託に係る金額が統制賃料額に満たなかつたにせよ、信義誠実の原則に照し、必ずしも賃貸借契約解除の原因となし得る程の債務不履行には該らないものと認めるを相当とする。
(村松 土井 兼築)